<伝説のダンサー>
カルロス・アコスタと聞いて、
皆さんはどんな人物を思い浮かべますか?
元ロイヤル・バレエ団ゲストプリンシパル(DVDがたくさん出ている)
2025年夏に来日公演を行うバーミンガム・ロイヤル団の芸術監督
キューバのアコスタ・ダンツァ芸術監督、、などなど
様々な顔を持つ彼ですが、
バレエに詳しい方なら、彼がキューバの貧しいスラム街で生まれながら、父の勧めでバレエ学校へ入学、かのアリシア・アロンソ女史に見出され、キューバ国立バレエ団で活躍したダンサーであることをご存知でしょう。昔、ロイヤル・バレエ団がキューバ公演を行った時、ホテルのバルコニーに立つアコスタは国のヒーロー、そして国賓のような待遇だったと語っています。
その後、アメリカなどキューバ国外でも活躍すると、英国ロイヤル・バレエ団のゲストプリンシパルとして招かれ、バレエ団のスーパースターとして長らく英国バレエ界に君臨。エリザベス女王より大英帝国勲章を授与されたプロフィールを持つ、稀代のダンサーです。
数多くのDVDにアコスタの舞台姿が記録されていますが、
そのテクニックの確かさと人並外れた身体能力に加え、
表現力の素晴らしさ、
芸術に対する熱い想いは、
スクリーンを通しても伝わります。
実際の彼は、
舞台で見るのと同じ、明るく、情熱的で、パワフルですが、
それに加えて自分が成し遂げたことに高慢にならず、
自分が受けた恩恵を、
今度は将来ある若いダンサーたちに与えるために、
アコスタ基金(Acosta Foundation)を作って資金を集めてしまうという、
超人的行動力を持つ人物でもあります。
既にキューバのハバナ市に「アコスタ・ダンス・アカデミー」を設立し、
世界中に優秀なダンサーを輩出している彼が、
2024年、いよいよ満を持して、英国ロンドンにバレエ・ダンス学校「アコスタ・アドバンス・トレーニング・ハブ(AATH)」を設立しました。
世界有数の物価高であるロンドンでは、
一流校でさえ、校舎の引越しや修復には5年、10年単位での資金繰りや寄付集めが必要です。
そんな中、新しい学校のオープンを広々とした敷地内の素晴らしい校舎で開校してしまうとは、あっぱれ!
背景に、どれだけの支援があるのだろうと想像してしまいます(!)
そんな学校に2024年夏、学校経営を任される元ノーザン・バレエ団ハビエル・トーレス氏にご招待いただき、校内やその周辺を見学してきました。
ロンドンで一番新しい地下鉄エリザベス線(ヒースロー空港から直通です!)で、
ウーリッチというロンドン東部の駅を降りると、
可愛らしいカフェや、
広々したプロムナードが続きます。
再開発が行われ美しく整備された街並みだそうです。
ウーリッチ市としては、ロンドン市中心部のサウスバンクセンター周辺のように
テムズ川沿いのその一帯を文化芸術地区にする計画だそうです。
戦時中には武器弾薬を作っていたという
日本なら博物館になりそうな場所ですが、
正面の校舎の他に、
向かって右手には公演会場として利用される
大きな、大きな建物があります。
「ここも学校の一部ですか?」と驚く私の問いに、
黙って満足げに頷くトーレス校長。
校内には、真新しいハーレクインのダンスフロア―が敷き詰められ、
改装に制限のある歴史ある建物であるにもかかわらず、
新品のスタジオ、更衣室やフィットネス設備などが既に完備され、
いつでも学生を受け入れる準備ができています。
実は「まだまだこれから凄いことが待っているんだよ」
と、トーレス氏が嬉しそうに語ってくれました(まだオフレコ残念!)
さて、そんな期待溢れる新学校のプログラムには、大きく分けて2種類あります。
<16+>
とても分かりやすい名付け方ですが、
こちらは16才以上がバレエの基礎固めから、
多種多様なダンスジャンルを身に付けていくアカデミーです。
初年度(2024年度)の授業料は年間£14,000(+VAT税)ですので、
他校の約2/3ほど。
そんなところにも、アコスタの想いが感じられます。
先ずは1年間のプログラムとして入学しますが、
将来的にはトリニティ・カレッジのディプロマが取得できるコースになる予定です。
(トリニティ・カレッジのディプロマはエルムハースト・バレエ・スクール、イングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクールなど、多くの主要なバレエ専門学校で採用されている単位認定機関です。)
<どんな人向け?>
*まずは1年間、海外バレエ留学してみたい。
*フルタイムでトレーニングしてから、他のバレエ学校のオーディションを受けたい。
*憧れのカルロス・アコスタや有名ダンサーたちから直接指導してもらいたい。
*1年間なら今の高校を休学できるかもしれない。
*自分の力を試したい。
そんな気持ちをもった16才以上のダンサーなら、
ぜひ挑戦してみて欲しいコースです。
学校ガイド アコスタ・アドバンス・トレーニング・ハブ
AATH16+プログラムのウェブサイト(英語)
<18+>
こちらは16+より、ひと足早く2023年に始まったプログラム。
18才以上のバレエ学校卒業後(または同等のアドバンストレーニングを修了後)、プロのダンサーとの間を埋めるコースです。
近年、ダンサーのキャリアが長くなり、新人の正団員入団がほぼ難しくなってきたバレエ/ダンス業界です。
それでも若い芽を育てるべく、今、ほとんどのカンパニーがジュニアカンパニーや研修制度を提供しています。競争は益々激しさを増し、ダンサーの資質も多様性、汎用性が求められます。
要するに、何でも踊れなければ仕事に就けない、というのが現状です。
皆さんが今、コンクールで踊っているソロは、
カンパニーのプリンシパルレベルにならなければ、一生踊ることはできません。
<どんな人向け?>
このブログを読んでいて、18+のコースに興味のある方は、
恐らく海外のバレエ団で踊りたいと思っている方だと思います。
今、海外のバレエ団が求めるのは、
ソロではなく、様々なスタイルのダンスで群舞が踊れるレベルの多様性を持つダンサー
そして、同じく様々なスタイルのダンスでパートナリングができるダンサーです。
もしあなたが、小さい頃からバレエと体操を習っていて、身体能力に長けているのでなければ、
しっかりトレーニング、そんなダンサーになるには、やはりそういったトレーニングが不可欠です。
そうなるとやはり、現在の日本のスタジオでは、
なかなか身に付けることが難しいことは、ご存知の通りです。
バレエが一定レベルに達していて(バレエが上手いことは最低条件)、
海外のバレエ団で踊りたいと思っている18才以上のダンサーなら、
ぜひ、この1年間のプログラムを受けてみて欲しいと思います。
授業料はなんと、「無料」
アコスタですから!
その代わり、レベルは高く、10名しか入学できません。
本気で臨んでください。
学校ガイド アコスタ・アドバンス・トレーニング・ハブ
AATH18+プログラムのウェブサイト(英語)
<おまけ>
もうひとつ、おまけのお話です。
2023年度には12名のダンサーが、AATH18+に入学しました。
そして2024年4月には、既に8名のダンサーが正式にカンパニーと契約を結んでいました。
それぞれ7月にバレエ学校を卒業した時には仕事が決まらなかった面々です。
「いったいどうやって?」と驚く私の問いに、
「カルロス(アコスタ)だから」と言って、意味ありげにウインクしたトーレス氏。
皆さんなら、どう解釈します?