この日のスカーレット版「白鳥の湖」の主役は
怪我で降板したローレン・カスバートソンの代役を含め
3回目となった高田茜と
バーミンガム・ロイヤル・バレエ団から移籍した
ウィリアム・ブレースウェルの二人でした。
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ロイヤル・オペラハウス ストールサークル席からの眺め
初演を観る、
という特別感は別として
新作の場合には
舞台クルーも
ダンサーも
何度か舞台を踏んでからの方が
私は安心してみることができるので好きなのです。
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スカーレット版「白鳥の湖」高田茜さん主役の日のキャスト表
ましてロイヤル・バレエ団のように、
「マノン」や「トリプルビル」を上演しながら
リハーサルを繰り返さなければならないような
忙しいバレエ団であればなおのこと、
最初の数回は
リハーサルの一部と考えても
いいのではないかと思っています。
(そのため、今回も初演の後は、何度か小中学校の生徒を招いて上演するスクールマチネが行われました)
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「白鳥の湖」カーテンコール(チェ・ユフィ・二羽の白鳥)
今回は3回目ですし、
他のキャストでも何度か上演を繰り返していますから、
おかしな言い方ですが
「安心して」楽しむことができました。
高田さんのテクニックの素晴らしさは
万人の認めるところですが、
その音楽性も
私は大好きなダンサーです。
スカーレットの要望だったのか、
高田さんの音楽性なのか
チャイコフスキーのスコアの
ひとつひとつの音が目に見えるように聴こえてきます。
バレエを見ていて
音楽が見えてくるダンサーは
私の少ない経験の中でも
ごく僅かです。
音に合っているとか
ダイナミクスが正しいとか
そういうことではなくて
「伸ばした指先や足先の
最後のところが
五線譜に書かれた最後の音に
きちんと反応している」
そんな細かい感じのところです。
細かいところなのですが、
積み重なると
音楽全体が見えてきます。
オデットの「悲しみ」「絶望」「希望」「喜び」
そういったすべての感情を伝える
チャイコフスキーの音楽を
丁寧に私たちに伝えてくれる踊りでした。
高田さんのオデット/オディールは
以前にも拝見したことがありますが、
今回のオディールは
以前に比べて
背筋が寒くなるほど
冷たく、人間の温かみを感じないオディールでした。
あっぱれ!
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「白鳥の湖」カーテンコール(オデット・高田茜)
一方、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団で
ソリストながら多くのリードロールを務めてきた
ウィリアム・ブレースウェルの
端正でノーブルな美しさは
近い将来プリンシパルへの昇進を
予感させてくれるものでした。
高田さんのサポートに徹したのか
まだスター性はあまり出していませんでしたが、
無理せずきちんと仕事をする
真面目なタイプなのかな。
これからの活躍が楽しみなダンサーです。
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「白鳥の湖」カーテンコール(オデット・高田茜)
ロットバルトには
トーマス・ホワイトヘッド。
このかた、本当に演技が上手いですね。
悪意に満ち満ちた魔法使いが
劇場の大ブーイングを受けていました。
(イギリスでは、カーテンコールで悪役が登場すると
決まってブーイングが起こります。
大きければ大きいほど、
演技が上手かったという高評価なのです)
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「白鳥の湖」カーテンコール(高田茜/ウィリアム・ブレースウェル)
夜7時半に始まった「白鳥の湖」
終演は10時半です。
ヨーロッパの夜は遅いとは言え、
カーテンコールや出待ちをしたら
家に帰り着いたのは
夜中の12時を回っていました。
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「白鳥の湖」カーテンコール(高田茜/ウィリアム・ブレースウェル)
いやはや
舞台鑑賞も
体力勝負です!