舞台は近未来。
汚染された地球を去るべく、人体実験のために作られた「クリーチャー」による実験を続けながらさまよう旅団に起こる悲しいストーリー。
「クリーチャー」と聞いて、思い出すのはロイヤル・バレエ団の「フランケンシュタイン」ですが、アクラム・カーンの作品「クリーチャー(Creature)」は、2021年にイングリッシュ・ナショナル・バレエ団とのコラボレーションで初演された作品で、カーンが得意とするインドの古典舞踊カタックをベースに、コンテンポラリーダンススタイルを融合させた作品です。「Dust」「ジゼル」そして、この「クリーチャー」で、バレエ団とのコラボは3作目となります。(ジゼルではトゥシューズが話題になりましたが、クリーチャーはカーン独特のカタック様の動きも見られ、ダンサーはかなり身体を振り回すことになりました)
ロイヤルはクリスタル・パイト、そしてイングリッシュはアクラム・カーンと、両バレエ団ともコンテンポラリーダンスの最先端を行く振付家へ作品を委託する時代になりました。ダンサーはヨーロッパのバレエ団同様、かなりコンテのテクニックや表現力が求められる時代になりましたね。
カーンは数年前に自分で舞台に立つことをやめてしまったので、その独特な踊りを観ることはできませんが、彼の振り付けを、一流のダンサーが踊れば、それはそれで、きっと素晴らしいものになるに違いありませんし、この全くのコンテンポラリーダンス作品をイングリッシュのダンサーたちがどんな風に自分たちの舞台で昇華するのか、とても楽しみでした。
今回のクリーチャー(主役)は、イングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクールの卒業生、Rentaro Nakaakiさんでした。仲秋さんは、2018年、卒業前の振付コンペでの最優秀賞を獲得していて、その作品を、学校と卒業公演の2回で観たことがあったので、とても楽しみでした。(確か学生の出会いと別れの日常を描いたコンテンポラリーダンス作品でした。)背が高くて王子様も似合いそうなダンサーさんですが、ご本人はもっと力強い、海賊やバジル、ロミオと言った役の方がお好きなようです。
今回はアクラムの振付をどんな風に表現するのかと期待していましたが、もうほんとに鬼気迫る迫力でした。
ソロからは、実際には痛みは感じないはずのクリーチャーの心の痛みがひしひしと伝わり、丸めた背中からは、まるでないはずの血がほとばしり、その叫び声が聞こえるような熱演でした。
「人」と「人ならざる物」との両方を表現するには、「心」をどう見せるかがカギを握ると思っています。
愛する人への「気持ち」が自分にあると気付いた戸惑いや、
それをどう扱ったらいいのか分からない苛立ち、
そしてその気持ちが抑えられなくなるきっかけとなる第三者への怒り。
「心」が現れたり消えたりという、とても繊細な違いは、表情、目の使い方、細かい手の動きで伝わってきます。肉眼でもダンサーが良く見える良席でよかった!
カーテンコールでも会場中から拍手喝采でしたが、いやはや、あの壮絶な舞台を務めた後は、魂が抜けたようになってしまうのではないでしょうか。
期待していたコールドですが、この作品ではあまり際立つところが見つかりませんでした。
なんだろう、既視感があるような。
いつものサプライズがありませんでした。
残念。
アクラム・カーンのうねるような迫力の群舞が待たれます。
そして、2022年9月からバレエ団の新しい芸術監督に就任した、
アーロン・ワトキンのこれからのプログラム作りが楽しみです。