【ニッポンレポ】ロイヤル・バレエ団 ピーター・ライト版「ジゼル」(2016年6月22日、東京文化会館)

 

思い出すだけで喉の奥にこみ上げるものがある舞台に出会えることは本当に一生のうちに何回あるのだろう と感じられた今回のジゼル。
遠い客席にいるのに、ダンサーの表情のひとつひとつが見え、声が聞こえるような感覚。
シェイクスピアの国ならではの英国ロイヤル・バレエ団の真骨頂に出会うことができました。

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わずか数日を空けてのマリアネラ・ジュリエットとマリアネラ・ジゼルだったのですが、
当然のことながらまったく異なるマリアネラ。

演技派揃いの英国ロイヤル・バレエ団の中でも、ジゼルに置いて
このマリアネラ・ワディムを超える組み合わせはないと断言できるほどのケミストリー

この演目自体はロイヤルの過去の上演をはじめ、国内外問わず他のカンパニーの作品をかなりの数で観ているはずなのですが、
物語の世界にどっぷりと浸りヒロインに感情を重ね合わせ、
振付家がどのような意図をもってこの振付でその場面を見せたかったのか
そしてその上でダンサーがどう解釈して表現をしているのかが
どの場面においてもストレートに伝わってきたのは、ジゼルでは初めての経験でした。

上手いだの下手だの、好きとか嫌いとか、いっぱしの感想なども吹っ飛んでしまうくらいの鮮烈な舞台。
アルブレヒトなんていういけ好かない馬鹿な貴族の男に騙される村娘のジゼルの心の動きそのままに感情移入する日が来ようとは…

狂乱の場で現実を知り受け入れられない苦しみ、狂気と現実との揺れ動き、決意、
そして愛する気持ちの細部までを観客すべてに踊りで伝えられるマリアネラの圧倒的な実力
ダンサーとして円熟の時を迎えているマリアネラ・ヌニェスを堪能できるこの機会を日本で得られたことに心から感謝しています。
(神戸の公演にやっぱりもう一回行くべきなのか実は迷っていたり)

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いけ好かない…とアルブレヒトではありますが、今回のワディムに限っては少しばかり
いえ正直に言いましょう、まったくそんなことはなかった!!!
彼は純粋にロイスとしてジゼルと出会ってしまい、心から真剣だったのだと思えるアルブレヒトでした。
細部に至るまでの正確なテクニックをダイナミックかつ優雅に表現するという
男性ダンサーにおいて得てして相反することを同時にこうも簡単にやってのけるワディム・ムンタギロフ。
彼の類稀なる美しいラインの膝下の動きや差し出された指先から音楽が溢れ出てくるかのようなミュージカリティは
踊りと音楽が常に一体というこの上ない幸福感をもたらしてくれるのです。
もしかすると脳内で勝手に音楽が鳴っていたのかもしれませんが。

最後のシーンは実はそれぞれのダンサーで表現が異なる重要な場面。
ワディム・アルブレヒトは深く悲しみに暮れ喪失感に苛まれているはずなのに
いまだ純粋にジゼルへの愛にあふれている喜びすら伝わってくるようなある種の希望を感じました。

ヒラリオンのベネット・ガートサイドも絶妙。粗野に描かれることの多いヒラリオンが
ジゼルのためにどうしてもそうならざるを得なかったんだと納得してしまうようなヒラリオン。

そして何よりパ・ド・シスの豪華なこと。
崔由姫(チェ・ユフィ)、アクリ瑠嘉(ルカ)、今回プリンシパル昇格が決まったフランチェスカ・ヘイワードとアレクサンダー・キャンベル
そしてヤスミン・ナグディ、マルセリーノ・サンベ という
ロイヤルの次回の来日にはメインキャストになっているであろう顔ぶれ。
ユフィさんのパ・ド・シスは個人的にはNo.1です
彼女の確かな実力は折り紙付きですがとにかく目を離せない、観ていると幸せになる感覚というのは得がたい魅力。
もっとたくさんのユフィを観たかった!と思っていたところ
先日ロイヤル・バレエ団の教育プログラムの一環として、先の震災で被災した熊本の中学に出向き
体育館に敷かれたリノリウムの上でネマイヤ・キッシュさんとジゼルを踊っているユフィさんが報道されていました。
彼女の出身地である九州へ派遣したロイヤル・バレエ団の懐の深さを見る思いです。

 

次はいよいよプリンシパル昇格が発表になってから初お目見えの高田茜さんの記事です。

 

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