2019年7月11日~21日 Bunkamura オーチャードホールにて上演されていた
マシュー・ボーンの白鳥の湖。
話に聞いたことはあっても見たことがなくて とはもう言えなくなってしまったこの作品。
今回は、ロイヤル・バレエ団でプリンシパルのマシュー・ボールもザ・スワン/ストレンジャーを演じるということで
ロイヤル・バレエ団ファンの多い日本でも盛り上がっていました。
レポートその1は、マシュー・ボーン作品を映画以外で初めて見たWellesスタッフから。
決して安くはないチケット代を負担して若い人たちが劇場へ行くのはなかなか難しいことかもしれません。
しかしながらその時期だからこそ というインパクトもあります。
(ネタばれ少々ありです。)
白鳥に食われる。そんなぞっとするような感覚を覚えた。
今回、初めてマシューボーンの『SWANLAKE』を鑑賞した。
古典バレエとしての「白鳥の湖」しかみたことがなかったため、衝撃を受けることが数知れずあった。
『白鳥の湖』といえば儚い、淡い、か弱い女性がメインの悲しげな物語というイメージが固まっていたが、その概念がことごとく打ち砕かれたのだ。
赤や黒といったシックでシンプルな色使い、決して高潔とは言えないような人間的な言動の登場人物達など、
古典特有の浮世離れしたストーリーではなかったことがいかにも現代版らしい。
古典の理想的なものとは離れた、現実味を帯びた設定は『白鳥の湖』という作品に対する固定概念を崩していく。
その最たる例が「白鳥(TheSWAN)」だろう。
前述のように、上演中は何度も食われるような恐怖を白鳥に対し初めて感じた。
白鳥は美しくたおやかで上品な存在として描かれることが多い。
だが、それだけではない。獰猛で荒々しく、攻撃的な面も持ち合わせる動物なのだ。
力強くバタバタと羽ばたき走り翔ぶ。
ターゲットを定め見据え狙う。
敵を蹴り、つつき、威嚇する。
その一方で群れをなして王子を魅力する。
この作品での白鳥はとても自由な野生の生き物として描かれている。
まさに王子の対極にあるからこそ引かれる存在なのだろう。
対照的な2人の織り成す物語はドラマティックで1秒たりとも目が離せない。
最も震撼したのなんといってもラストシーン。
食われそうになる王子を必死に身を挺して守る白鳥の姿。
白鳥が王子を庇ったのはどんな理由からだったのだろうか。
彼の思いを想像しつつ、その懸命さに心を打たれた。
また一方、現代芸術らしさも楽しめる。
王子のガールフレンドは観劇途中に携帯電話の着信音が鳴ったり犬に噛まれたりする
コミカルなアメリカ女性の典型のような女性だが純粋なひと。
王子はバーでの失態をパパラッチに撮られたり、ガールフレンドに裏切られ落ち込んだりと打たれ弱い。
女王は衛兵と戯れる白鳥の誘惑に負け、執事は無慈悲に職務を遂行する。
キャラクター毎の個性が引き立ち、ディテールの仕掛けやシチュエーションがとても楽しい。
理解はできるが共感しにくいといった古典とは異なり
それぞれの人物に共感できるポイントがたくさんある。
マシューボーンの『白鳥の湖』はすでに定番なんだと思った。
古典作品しか知らなかったことが悔やまれた。
古典ではないという意味の「コンテンポラリー」というと
全身タイツのよく分からない理解しがたいもの と思われている方が残念ながら日本には多いが
チュチュだけではないバレエがもっと広まって、気軽に見に行けるようになると嬉しいと思う。
2019.7.19 Ayumi
若い人たちがもっと気軽に生のステージを見ることができますように!