2026年7月。
セントラル・スクール・オブ・バレエの一年を締めくくるサマーショー(学校公演)を観るため、今年もRoyal College of MusicのBritten Theatreを訪れました。

会場周辺のアイコンの一つです


毎年楽しみにしているこの時期の公演ですが、今年改めて感じたのは、セントラル校の舞台は単に一年間の成果を披露する「発表会」ではないということ。


1年生、2年生、それぞれの学年のカラーに合った作品が選ばれ、その一年に何を学び、どのように成長してきたのか。そして次の段階では何を求められるのか。
カリキュラムの意図と学生たちの成長が、舞台を通してはっきりと見える、とてもよく考えられたプログラムでした。
Executive DirectorのMark Osterfield氏も、今年の学校公演のプログラムの冒頭で、

セントラル・スクール・オブ・バレエ
学校運営統括責任者(Executive Director)
“The progress across the year is tangible”
(一年を通した成長が、目に見える)
と記しています。
そしてセントラル校のトレーニングの中心には「Performance(公演)」があり、この学校公演では、若いダンサーに必要とされる幅広い技術、versatility(多様なスタイルへの対応力)、artistry(芸術性)を見ることができる、と説明しています。
実際に舞台を観ると、その言葉の意味がよく分かります。
1年生 ― クラシックを軸に、身体の言語を広げる
1年生のプログラムでまず印象的だったのが『Napoli』です。

CSBのウェブサイトよりお借りしました
August Bournonville(ブルノンヴィル)の作品をもとに、Yolandi Moreira先生とChristopher Hinton-Lewis先生が再構成したもので、1842年にDanish Royal Balletのために創作された『Napoli(ナポリ)』から、第3幕のパ・ド・シスとタランテラを踊りました。
ブルノンヴィル特有の細かな足さばき、軽やかなジャンプ、音楽性、そして自然な上半身の使い方。
セントラル校に入学して最初の一年、スタジオで積み重ねてきたクラシックバレエの基礎を、一つの作品として舞台の上で見せる機会になっていました。
しかし、1年生が踊るのはクラシックだけではありません。
Ruaidhrí Maguire振付によるネオクラシック作品『The Veil』、そしてYeji Kim振付によるコンテンポラリー作品『Undercurrent』。


『Napoli』からこの二作品へと進むだけでも、セントラル校がクラシックバレエを大切な軸としながら、1年目からダンサーの身体と表現の可能性を大きく広げようとしていることが伝わってきます。
学校の中で、新しい作品が生まれる
そして『The Veil』と『Undercurrent』には、もう一つ興味深い背景があります。
Ruaidhrí MaguireとYeji Kimは、ともにセントラル校の2025/26 MA Choreography(振付学修士課程)の学生です。


セントラル校にはダンサーを育成する学部課程だけでなく、振付家を育てる修士課程があります。
そこでは、自ら創作した作品を実際に舞台で発表することも学びの一部となっているため、学部の学生たちにも毎年、新しい作品の創作に参加する機会があります。
既に完成しているレパートリーを覚えて踊ることとは、まったく違う経験です。
振付家とスタジオに入り、まだ完成していない作品を一緒につくる。
振付家が何を求めているのかを理解し、新しい動きを身体に取り込み、試行錯誤しながら作品を完成させ、最後には観客の前で初演する。
これは将来プロのカンパニーに入った時にも必要となる、とても大切な経験です。
同時に修士課程の学生にとっても、自分の振付を実際のダンサーに与え、リハーサルを重ね、劇場で上演できる作品へと仕上げていく実践の場になります。
「ダンサーを育てる教育」と「振付家を育てる教育」が同じ学校の中で出会い、そこから新しい作品が生まれる。
これもセントラル校ならではの魅力だと思います。
2年生 ― 作品の世界へ、さらに深く
2年生になると、舞台のカラーはまた一段変わります。
セントラル校でコンテンポラリーダンスを指導するEmily Powell先生による『Juniper Darling』は、学生たちとのコレボレーションによって創作された作品。


「togetherness(共にあること)」「serenity(静けさ)」「accumulation(積み重なり)」をテーマに、動きを繰り返し、発展させながら徐々にエネルギーを高め、ダンサー同士のコネクションとコミュニティをつくっていきます。
一方、Leanne King先生による『The Riviera Set』は、全く違う世界です。
舞台は1930年代のフレンチ・リビエラ。
学生たちはそれぞれ、Noël Cowardの世界から飛び出してきたような1930年代の名前とキャラクターまでつくり、パーティーに集う人物になって作品を踊ります。
同じコンテンポラリーダンスでも、作品が変われば求められる身体の質も、表現も、世界観も変わる。
振付を正確に再現するだけではなく、作品ごとに異なるダンスの言語を理解し、その世界の中に入っていく力が求められていることを感じました。
音楽とダンスが一緒に生まれる『Rhapsodic』
そして2年生の作品で、私が特に楽しみにしていたのが『Rhapsodic』です。

Jann Esterhuizen先生とShaun McLaughlin先生の振付によるネオクラシック作品で、音楽はジョージ・ガーシュウィン。
そして、私の友人でもあるピアニストChristopher N Hobson氏が音楽をアレンジし、舞台上で生演奏しました。
公式プログラムには、この作品は2年生のために特別に創作され、学生たちのvitality(生命力)を引き出しながら、セントラル校で受けているトレーニングに忠実であることを意図した作品、とあります。
さらに興味深いのは、ホブソン氏による音楽のアレンジそのものが、バレエの構成を決めていること。
親密でスモーキーな叙情的な冒頭から、明るく喜びに満ちたダンスへ。そして最後はリズミカルなコーダへと進みます。
ホブソン氏のピアノも本当に素晴らしく、録音された音楽に合わせて踊るのとはまた違う、生演奏ならではの魅力がありました。
ピアノの音とダンサーたちの身体が互いに呼吸し、音楽とダンスが一緒になって舞台上で作品をつくっていく。
学生たちの音楽性と、一人ひとりの個性もよく見える、とても印象的な作品でした。
そして3年生へ ― バレエ・セントラルで「学生」から「ダンサー」へ
1年生、2年生と舞台経験を重ねてきた学生たちは、最終学年になると、さらに大きな一歩を踏み出します。

セントラル校の3年生は、卒業生カンパニー「バレエ・セントラル」のメンバーとして、プロフェッショナルな作品を携え、英国各地の劇場で公演を行います。

2026年のバレエ・セントラルは5月からツアーをスタートし、英国各地の9会場を巡りました。
これは学校内で行われる一度きりの卒業公演ではありません。
作品をリハーサルし、劇場へ入り、異なる舞台環境に適応し、一般のお客様の前で何度も公演を重ねる。
セントラル校が大切にしている「パフォーマンスを通してダンサーを育てる」という教育が、3年生では一気にプロフェッショナルな世界へと近づいていきます。
このバレエ・セントラルについて、今年とても印象的なレビューがありました。
書いたのは英国のダンス評論家Graham Watts(グラハム・ワッツ)氏。
The Critics’ CircleのDance SectionおよびUK National Dance Awardsの会長を務め、英国をはじめ世界のダンスを長年にわたり見続けてきた批評家です。
ワッツ氏は2026年7月17日、ブリッテン・シアターでバレエ・セントラルの最終公演を観た後、Gramilanoに掲載されたレビューの冒頭で、こう書いています。
“It is commonplace for dance conservatoires and university-level schools to provide their graduating students with a pre-professional performance experience … but I doubt that any go quite so far as Central School of Ballet.”
ダンスの専門学校や大学レベルの学校が、卒業を控えた学生にプロになる前の舞台経験を提供すること自体は珍しくない。
「しかし、セントラル・スクール・オブ・バレエほど徹底してそれを行っている学校は、ほかにないのではないか」
という評価です。
この言葉は、とても重要だと思います。
バレエ学校を選ぶ時、私たちはどうしても、毎日のバレエクラス、教師、施設、レッスン時間などに目を向けがちです。
もちろん、それらはとても大切です。
けれどもプロのダンサーになるためには、「上手に踊れること」と「舞台で踊れること」は、必ずしも同じではありません。
リハーサルを重ね、振付家の意図を理解し、仲間と一つの作品をつくり、劇場という環境に適応し、観客を前にして作品を届ける。
そして、それを一度ではなく繰り返し経験する。
ワッツ氏はレビューの最後でも、バレエ・セントラルでの経験について、プロフェッショナルなキャリアに向けた素晴らしい準備であるように見える、と評しています。
セントラル校がなぜこれほど「パフォーマンス」を教育の中心に置いているのか。
1年生、2年生のサマーショー(学校公演)を観た後に3年生のバレエ・セントラルを見ると、その理由がよく分かります。
3年間で身につける「幅」
今回の学校公演では、3年生たちはSir Kenneth MacMillanの『Solitaire Pas de Deux』、Adela Ramirez先生のアレンジによる『Sleeping Beauty – Prologue (Fairies & Cavaliers)』、そしてCameron McMillanの『BOLERO 18』を披露しました。


『Sleeping Beauty』では、純粋なクラシックバレエのエレガンスと伝統的なクラシックバレエのスタイル。
『Solitaire』では、MacMillanならではの、人間の感情や心理をダンスによって表現する世界。
そして『BOLERO 18』では、ラヴェルの有名な『Boléro』を現代の若いダンサーの身体を通して再構築する、新しいコンテンポラリーの世界。
実は『BOLERO 18』を振付けたCameron McMillanも、セントラル校のMA Choreographyを2024年に卒業し、活躍を続ける振付家です。
この作品は、彼が修士課程で探究していた「歴史的な作品を、現代のダンサーと観客にとって意味のあるものとしてどう再構築するか」という問いから発展したものです。
1年生では、現在、修士課程で学ぶ若い振付家と新しい作品をつくる。
その先には、セントラル校の修士課程を卒業し、振付家として活動するアーティストの作品がバレエ・セントラルのレパートリーになる。
ここにも、学校の中で教育と創作が循環している面白さがあります。
ブルノンヴィルからマクミランへ。
クラシックからネオクラシック、コンテンポラリーへ。
既存の名作を踊ることから、まだ誰も踊ったことのない新作を振付家と一緒につくることへ。
セントラル校でいう「多様性」とは、単に「いろいろなジャンルを踊ります」ということではないのだと思います。
異なる振付家、異なる音楽、異なる身体の使い方、異なる作品世界に入り、それぞれに必要なダンサーになれること。
その力を3年間かけて育てていることが、舞台を観るとよく分かります。
世界各国から集まった家族たち

そして、この学校公演ウィークを特別なものにしているのは、舞台の上の学生たちだけではありません。
今年も日本をはじめ、世界各国からたくさんのご家族が、学生たちの舞台を観るためにロンドンを訪れていました。
海外留学では、保護者が日々のトレーニングを直接見る機会は決して多くありません。
離れた国で生活する我が子が、どのような環境で学び、どのように成長しているのか。
特に留学して間もない1年生のご家族には、期待と同時に心配もあることと思います。
だからこそ、実際に舞台を観たご家族が口々に話されていた言葉が、とても印象に残りました。
セントラル校で受けている教育の素晴らしさ。
そして何より、自分の子どもがこの環境で意欲を持ってトレーニングに向き合っている姿を実際に見ることができたことへの、安堵と喜び。
技術的に上達した姿を見ることは、もちろん嬉しいことです。
でも、それ以上に、
「この学校で学ぶことを本人が楽しんでいる」
「もっと学びたい、もっと上手になりたいと、自分から前へ進んでいる」
その姿を見ることができたことを喜ばれるご家族の様子も、毎年この公演で心に残る光景の一つです。
3年間の最後に、自ら選び、研究した作品を踊る ― 卒業ソロ
バレエ・セントラルの一員として、振付家の作品を観客へ届ける経験を積んだ学生たち。
しかし、セントラル校での3年間は、それだけでは終わりません。


学校公演ウィークの最後に待っているのが、卒業生一人ひとりによる 卒業ソロ ( Graduation Solo)です。
これは単に「卒業生が一人ずつ得意なソロを踊る」という舞台ではありません。
学生は教師と相談しながら、自分自身が研究したい一つの作品を選びます。
その作品についてリサーチし、振付や作品背景、表現について分析し、論文としてまとめ、さらに自らの身体を通して実践する。
Research、Analysis、論文、そしてPerformance。
アカデミックな研究とダンサーとしての実践が一つにつながった、セントラル校での学びの集大成です。
選ばれる作品もクラシックバレエだけではありません。
コンテンポラリーダンス、ジャズなど、学生それぞれの興味や個性、これから進みたい方向によって実にさまざまです。
だからこそ、この舞台には一人ひとりの個性がとてもよく表れます。
1年生では、教師や振付家とともにさまざまな作品を学ぶ。
2年生になると、異なる振付家、異なるスタイル、異なる作品世界に対応する力を身につける。
3年生ではバレエ・セントラルの一員として、プロフェッショナルな舞台経験を重ねる。

そして3年間の最後には、
「自分は何を研究し、何を踊り、何を表現したいのか」
を自ら考えて選んだ作品で、一人で舞台に立つ。
卒業ソロを観ていると、セントラル校が育てようとしているのは、与えられた振付を上手に踊るだけのダンサーではないことがよく分かります。
自ら調べ、考え、分析し、それを自分自身の身体を通して表現できるダンサー。
それぞれの学生が選んだ作品と、その表現の違いを観ることのできる卒業ソロは、セントラル校での3年間の教育を象徴する、とても特別な舞台です。


そして、来年へ
すべての公演を終えた後、芸術監督のKate Coyne先生とお話ししました。

セントラル・スクール・オブ・バレエ
芸術監督・専門教育統括責任者
(Artistic Director and Professional Training Lead)
Kate先生はロイヤル・バレエ・スクールの卒業生でもあり、私が長く親しくさせていただきながら、心から尊敬している友人の一人でもあります。
そんなKate先生が最後に、
「来年度はね、1年生も2年生も、バレエを教えるのはチェケッティの先生なのよ」
と言って、にっこりウィンク。
その言葉を聞いて、私は思わず嬉しくなりました。
チェケッティの伝統は、英国バレエの歴史と深いつながりを持っています。
そして英国独自のバレエスタイルを確立した中心的人物の一人が、ロイヤル・バレエ団の創設振付家、サー・フレデリック・アシュトンです。
アシュトンが築いた、いわゆる“English style(英国スタイル)”を特徴づけるのは、素早く精緻なフットワーク、表情豊かなエポールマン、柔軟な上半身、そして卓越した音楽性。
新しいものを積極的に取り入れながら、その土台には確かなクラシックバレエがある。
ブルノンヴィルから始まり、ネオクラシック、コンテンポラリー、新しい振付家とのクリエーション、ケネス・マクミラン、そして学生自身による研究と表現へ。
今年の舞台で見たセントラル校の幅広さを支えているのは、やはりその確かな基礎なのだと思います。
Kate先生のウィンクが、私にはまるで、
「来年はさらに期待していてね」
と言っているように見えました。
舞台に立つことそのものが、教育
今年の学校公演のプログラムで、Kate Coyne先生は学生たちの
“talent(才能), dedication(貢献), growth(成長) and collaborative spirit(共同作業の精神)”
を称えています。
才能だけではない。
貢献、成長、そして共同作業の精神。
今年の学校公演ウィークを全て観て、この言葉はとてもセントラル校らしいと思いました。
舞台は、上手になった学生が最後に成果を披露するためだけの場所ではありません。
舞台に立つことそのものが、ダンサーを育てる教育の一部なのです。
作品を学び、振付家と新しい作品をつくり、生演奏で踊り、仲間と一緒に一つの舞台をつくり、観客の前で経験を重ねる。
3年生になればバレエ・セントラルの一員として英国各地の劇場でプロフェッショナルな舞台経験を積み、そして最後には、自分自身で作品を研究し、考え、自分の身体で表現する。
その積み重ねによって、少しずつ「バレエ学校の生徒」から、「自分で考え、作品を理解し、観客に届けることのできるダンサー」へと成長していく。
今年も学生たちの素晴らしい舞台と、それを見守る世界各国のご家族の幸せそうな表情を見ながら、
「やはりセントラル・スクール・オブ・バレエは、素晴らしい学校だな」
と、改めて感じた学校公演ウィークでした。
そして、Kate先生のウィンクの先にある来年のセントラル校を、今から楽しみにしています。
2026年11月14日&15日(東京)/17日(大阪)にて今年も日本講習会・長期留学オーディションが開催されます。講習会ではサマースクールのスカラシップやサマースクール参加審査を実施。中学生から参加可能です。


