【ロンドンレポ】ロイヤル・バレエ団 「フランケンシュタイン」Vol.2

ロイヤル・バレエ団「フランケンシュタイン」(2016年5月)

イギリス人振付家、リアム・スカーレットによる初の全幕バレエ『フランケンシュタイン』を、2つのキャストそれぞれの初日に鑑賞してきました。

ロイヤル・バレエ団「フランケンシュタイン」2016年Aキャスト:フェデリコ・ボネッリ、スティーブン・マクレイ、ラウラ・モレーラ
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ロイヤル・バレエ団「フランケンシュタイン」Bキャスト:トリスタン・ダイェー、ネマイア・キッシュ、サラ・ラム

今日のレポートは少々ネタバレも含みますので、ネタバレを避けたいかたは写真のみご覧下さい。

メアリー・シェリーの同名の小説を、自身の初全幕バレエの題材に選んだリアム。
若干29歳にして既に様々なバレエ団へ作品を作り、天才と称される彼の初の全幕物とあって、おそらくかなり多くの期待を持たれていただろうと思います。
期待が高かった分、自分の期待と違うものを観た人の評価が厳しくなったのか、初日後の批評家による評は1つ星の酷評から4つ星評価のものまで、真っ二つに割れました。
確かにこの作品は完璧ではないし、冗長な部分や、人物(とクリーチャー)の掘り下げが足りていないところもあり、まだまだ変更の余地はありますが、大きなポテンシャルを持った作品であると、私は感じました。
小説に従って丁寧に作られていていましたが、少し小説と異なる箇所もあったので、長くなりますがキャスト表に載っていたあらすじを一番下に載せておきます。

リアムの『フランケンシュタイン』のヴィクター・フランケンシュタインは、とても愛情深い人物で、家族からも召使い達からも慕われていて、彼も皆を大切にしている様子が伺えました。そして彼がクリーチャーを作るに至ったのは亡き母への愛情からだったというのも分かります。エリザベスとヴィクターのお互いへの愛や2人の深い結びつきも伝わってきました。そしてクリーチャーを作った罪悪感と恐怖心に苛まれていく過程も見えました。
エリザベスとヴィクター、
ヴィクターとクリーチャー、
エリザベスとクリーチャー、
クリーチャーとウィリアム
という組み合わせの素晴らしいパ・ド・ドゥもありました。
ただ、小説にあるクリーチャーが人間らしさを学んで裏切られる過程の描写がほぼ無いに等しいので、小説の内容を知らない人には、クリーチャーはただの凶暴な怪物に見えてしまっていたかもしれません。そして細かい点、例えばジュスティーヌがウィリアム殺しの犯人と誤解される理由もあらすじを読んでいるか、小説の内容を読んでいないと、分かりにくかったと思います。
恐らくそのあたりが、批判をされている最も大きな理由です。
にもかかわらず、小説に登場しないような娼婦達が出てくる酒場のシーンが長くあったり、結婚式のダンスのシーンも長かったり、マクミラン作品やアシュトン作品を彷彿とさせる場面が多々あったりと、余分なものが多かったので、そこも多くの批判の対象となっていました。(ただし私はこれまでのロイヤルバレエ作品やアシュトンやマクミランへのオマージュという意味で入れたのだと好意的に捉えていたのですが・・・)

恐らく再演があると思うので、その時にはもっとクリーチャーの物語にもフォーカスし、観客が彼の気持ちに寄り添いやすくなるように、そしてストーリーの細かい点をもう少しわかりやすくし、例えば、ヴィクターがクリーチャーを創り出そうと決意する瞬間などがもっとはっきりと見て取れるようになれば、さらに素晴らしい作品になるのでは無いかと思います。
今はまだ少し原石のままな部分も多かった印象ですが、次回はさらに磨かれた作品を観られるのを楽しみにしています。「未来のクラシックバレエ作品」となるような作品になることを願って。

そしてまだ29歳のリアム。この先彼が作る作品も楽しみです。

<あらすじ>
1幕はヴィクターとエリザベスの子供時代から始まります。フランケンシュタイン家の門の前で倒れていた孤児、エリザベスはフランケンシュタイン家に引き取られます。エリザベスとヴィクター、それに厳格な女中頭のモーリッツの娘のジュスティーヌは仲良く育ちます。
時 は経ち、ヴィクターは父親と同じく医者になる勉強をすべく、インゴルシュタットの大学へ向けて出発しようとしています。旅立つヴィクターへ、父親は研究の成果を書き留めるジャーナルを、母親は自分の肖像画の入ったロケットを渡します。エリザベスとヴィクターはお互いの愛を確かめあい、ヴィクターが大学から戻ったら結婚すると約束をします。お祝いムードに包まれる一家。ところが2人目の子供を妊娠中の母親が突然倒れ、子供は無事に産まれるものの、彼女は死ん でしまいます。ヴィクターは悲しみに打ちひしがれながらも家族に別れを告げ、インゴルシュタットへと向かいます。

 インゴ ルシュタットの大学で、彼はヘンリー・クラーヴァルという、他の学生達からは馬鹿にされている心優しい学生と仲良くなります。解剖学の手術室での授業で、学生達は教授からの授業を受け知識を吸収しようとします。その中でも一際熱心なヴィクターは、周りの学生達と友に酒場に行っても勉強を止めず、ひとり手術 室へ戻ります。

 そこでヴィクターは母のことを思い出しながら、人間の生と死に思いを巡らせます。そして死んだものに再び命を吹き込めるという、授業で聞いた話を思い出し、何かに憑かれた様に、あらたな生命を創り出す作業に没頭し、その内容をジャーナルに書き留めていきま す。ついに新たなクリーチャーを生み出すことに成功したヴィクター。しかしそのあまりの醜さに恐れおののきます。同様に恐れおののいたクリーチャーは、ジャーナルの入ったヴィクターのコートを手に取り外に逃げ出します。そこへやってきたヘンリーは絶望したヴィクターを見て、彼をジュネーブの家に連れ戻 します。

2幕
ジュネーブに戻ったヴィクターは彼の作り出したものへの恐怖から悪夢にうなされ続け、体調も崩します。一生懸命看病するエリザベスにもヘンリーにもジュスティーヌにも、本当のこをと言えません。それでも少しずつ健康を取り戻すヴィクター。一方のクリーチャーもヴィクターを追ってジュネーブにやってきます。

7年が経ちました。ヴィクターの弟のウィリアムはジュスティーヌから勉強や礼儀作法を学んでいます。
エリザベスはヴィクターが苦しんでいる理由をなんとか聞き出そうとします。どうしても言えないながらも、お互いへの愛を確かめ合う2人。

一方、クリーチャーは、自分を生み出した親からの受容と愛情を求めて、フランケンシュタイン家の前までやってきます。会った時のためにお辞儀の練習をするクリーチャー。ふとしたはずみにコートのポケットの中のジャーナルを発見し、自分がどのように作られたかに気づきます。
そこへ、星を見に外に出てきたヴィクターがやってきて、自分のジャーナルが落ちているのを見つけ、恐れからパニックに陥った彼は、自分の記憶からこの出来事を消し去ろうと、ジャーナルを破り捨てます。それを見て自分を否定されたと思ったクリーチャーはヴィクターとその家族への復讐を決意。
次の日は弟ウィリアムの誕生日。パーティーが始まる前、ヴィクターは母親からもらったロケットをウィリアムに渡します。パーティーの最中に目隠しゲームをしていて1 人残されたウィリアムは、目隠しをしたままでクリーチャーと出会い、2人しばしの間心を通わせます。しかし目隠しを外し怪物のような姿を目にしたウィリアムは驚きの あまり叫び声をあげ、黙らせようとしたクリーチャーは彼を殺してしまいます。ウィリアムの遺体をみつけ家まで連れて帰ったジュスティーヌの胸元には、クリー チャーがウィリアムが持っていたロケットを入れ込んでおり、そのことからジュスティーヌがウィリアムを殺した犯人と誤解されてしまいます。クリーチャーがヴィクターの前に現れ、彼の愛と友情を請いますが、ヴィクターからは拒否されます。ジュスティーヌは結局絞首刑にかけられました。
3幕
ヴィクターとエリザベスの結婚式当日のパーティー会場。ヴィクターはまだ罪の意識と恐れに苛まれています。ダンスが続く中、父親が急死、パニックに陥ったヴィク ターはエリザベスとヘンリーを残し、クリーチャーを探しに行きます。その間にヘンリーも殺され、戻ってきたヴィクターの前でエリザベスも殺されます。クリーチャーと対峙したのち、自分がしてしまったことの大きさにうちひしがれたヴィクターは自らの命を絶ちます。クリーチャーは自分を創り主を抱き上げますが、しばらくすると彼も、炎の中へと姿を消します。